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1)入院期間1ヵ月以上で対象が妻の場合、ビリーブメントケアヘの印象が比較的よい。
2)入院期間が短く対象が妻の場合、ビリーブメントケアを受けている時は辛かったが、1年以上経過したいまはよかったと受け入れている。
3)対象が夫の場合、入院期間にかかわらず、ビリーブメントケアを受け入れにくい場合が多く、今後は病院と距離をおきたいと思っている。
4)その他子供・友人等の場合、冷静に受け止め客観的に評価している場合が多い。
一方、回収されなかったアンケートをどうとらえるか。
一つにアンケートを自由記載方法にしたことが逆に煩わしさを与えたのではと考える。もう一つに、死別体験者の悲嘆は、その人の心の中に秘められていることが多く、あえて意見を聴かれること、関わりを持たれることに抵抗感を持つことも考えられる。当院でのビリーブメントケアを行う上での工夫の必要性を感じた。
結語
死別体験者の悲嘆は、患者とともに生きた過程やその後の環境により個別性があることを今回の調査でさらに学び得た。その学びを今後のビリーブメントケアに生かしていきたいと考える。
1996年11月死の臨床研究会
すべてを死に結びつけ不安を表出した終末期患者への関わりを考える
○武井淳子 山崎真由美 佐々木幸子
はじめに
死を前にした患者は、常に病気の進行に対する不安を抱いている。痛みが緩和され、行動範囲も拡大したにもかかわらず、すべてを死に結びつけ死への不安を持ち続けていた患者が、他患との出会いや家族のサポートを受け平穏な気持ちで死を迎えることができた症例を体験したので報告する。
患者紹介
Sさん、54歳、女性、卵巣癌、肝転移
家族構成:夫(55歳)・長女(25歳)・次女(22歳)の4人暮らし
性格:内向的・神経質
卵巣摘出術を受け、1ヵ月を経過したころ軽快退院で
きると思っていたが、痛みなどの症状出現、さらに主治医より病名・予後1ヵ月と告知されれSさんは、衝撃を受け自らホスピスを希望し転院となる。
経過
入院時表情暗く、医療者と目を合わそうとしなかった。右側腹部の痛み強くインダシンカプセル100mgで除痛を図るが効果得られず。「ここに来たらよくなると思っていたのに、ショックだわ」などの言葉も聞かれた。2日目にロキソニン240mgに変更し、約1週間後には症状は緩和された。表情に変化はなかったが、同室者とともに食堂へ行ったり、散歩したりとADLが拡大されていった。そのため医療者は、外出・外泊を勧めたが、Sさんは「家に帰ると一人」「痛くなったらどうしよう」「死が近いからそんなに外泊を勧めるの」などを言葉にし、出かけようとはしなかった。そこで院内で趣味のレザークラフトをするように勧めたが「やりたいけど死が近いからといわれているみたい」との言葉が聞かれた。そのため、外泊や趣味の話は避けてSさんの不安な気持ちを傾聴し、その表出を待った。
その間に同室者の症状が悪化するのを見て、「階段を落ちるような経過をたどるのね。私もそうなんだわ」と口にした。その後、その患者が死亡し、院内でお別れの式が開かれた。医療者がそのことを伝えると最初は戸惑った様子だったが式に参列し「よい表情でよかった。すごく暖かい式ね」と笑顔を見せた。こうした経験をする中で「死よりも、死ぬまでが怖い」というやりきれない思いを少しずつ語れるようになった。
医療者は患者の不安な気持ちを受け止め家族と相談し、家に戻るのではなく院内で家族との大切な時間を共有できるようにアプローチした。ホスピスという環境を生かし、できる限りの面会や家族室の利用を勧めた。それにより、Sさんの表情も和らぎ、コミュニケーションが円滑に図れるようになった。その後Sさんは、徐々に症状悪化し、2週間ほどで家族に見守られながら永眠した。
考察
当症例を通し以下のことについて学んだ。
1.不安の強い患者には、十分傾聴し見守ることにより不安の根源を明らかにし、それに対しケアを提供すること
2.患者は死を恐怖ととらえながらもホスピスという環境の中で他患との交流などを通し、自らを振り返り自己のおかれた現状や死と向かい合いそれを受け止めることができる、またその力を持っている

 

 

 

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